くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

二次無効の原因は? その1(1/2)

以前の記事に、二次無効がほとんどすべての患者に現れる可能性があるということを書いた。
では、その二次無効の原因はなんだろうか。
本稿と次稿ではそれらを列挙する。

本稿では、レミケードを無効化する、本来の意味での二次無効(レミケードの効果を増強できれば対応できるかもしれない)の要因についてを、
次稿では二次無効と同じ症状が出るが、レミケードが無効化されているわけではない(レミケードの効果増強以外の対処が必要になる)場合について記述する。


二次無効の機構について決定的な報告はないが、いくつかの文献でその機序が考えられている。それらに共通するのは、『レミケードの血中トラフ濃度の低下』が原因であるとしている点である。
血中濃度を下げる要因としては各資料で様々なことが書かれているので、それらをまとめると以下の3つになる。


1. 抗インフリキシマブ抗体

複数の論文で原因の第一に、抗インフリキシマブ抗体(レミケードに対する抗体)の出現が挙げられている。
レミケードを異物と認識した免疫システムが抗体を作り出し、レミケードが中和されてしまい有効血中濃度を維持できなくなる可能性があるということだ。

金井ほか(2012)*1では、
「抗インフリキシマブ抗体の存在が臨床的効果や寛解率に影響しなかった」、
「効果持続時間と抗インフリキシマブ抗体濃度には相関があり、抗インフリキシマブ抗体濃度が高い症例では低い症例に比べて効果持続時間が有意に短い」
とする2つの海外での研究成果から
"抗インフリキシマブ抗体の出現はインフリキシマブの血中濃度の維持を妨げ効果を減弱させる要因の一つと考えられた" と述べている。

金井ほか(2012)の文章だと先行研究との関係がちょっとわかりにくいが「抗インフリキシマブ抗体が体内に存在してもレミケードは問題なく効果を発揮するが、抗体により血中のレミケード濃度が素早く下がっていくので効いている期間は短くなる」ということである。

この抗インフリキシマブ抗体が誘導される因子として久松(2017)*2は、"製剤自体の有する免疫原性(抗体製剤は免疫システムに異物として認識される)"、"Danger signal(免疫反応を誘導する刺激)の存在"、"不適切な投与間隔や投与量"、"炎症自体の強さ"、を挙げている。

特に不適切な投与間隔については複数の文献で問題視されており、
久松(2017)は不定期の投与や低容量の投与が抗インフリキシマブ抗体出現のリスクとなると記述しており、金井ほか(2012)や田中ほか(2016)*3でもエピソディック投与(再燃時のみの投与)は抗インフリキシマブ抗体を出現しやすくするとしている。


 2. インフリキシマブ治療前の血中TNF-α濃度:

これは、血中のTNF-α(レミケードが標的とする炎症に関連するタンパク質)の濃度が高ければレミケードを投与しても速やかにTNF-αの中和に使われてしまい、
そのために血中のレミケード濃度が保てなくなるということである。

穂苅ほか(2016)*4では、抗インフリキシマブ抗体が出現しなくても、TNF-αの生産が亢進することにより中和抗体の絶対量が不足するため効果が弱まる可能性を指摘している。

関節リウマチについては詳細な調査から血中TNF-α濃度がレミケードの血中濃度に影響すると示唆されており、同様の関係がクローン病でも考えられるが、
クローン病については「レミケード投与開始前の血中TNF-α濃度がレミケードの効果減弱に影響する」ことが報告されているだけで、
血中TNF-α濃度と血中レミケード濃度の定量的な関連性(; それぞれの濃度を測定し濃度変化によりどのように二次無効の症状が現れてくるのか?)はまだ明らかにされていない(金井ほか2012; 田中ほか2016)。


3. Fcγ受容体の遺伝子多型

これは、Fcγ受容体の遺伝子多型が、体内からレミケードを排泄する速度に関係しているかもしれない(;レミケードを早く体外へ排除してしまう体質が存在する可能性がある)ということである。

IgG1由来の抗体であるレミケードはFcγを有しており
レミケードがTNF-αと結合してできる免疫複合体の除去にこのFcγの受容体が関係すると考えられている。
そのFcγ受容体には遺伝子多型が存在することが知られており、関節リウマチ患者の遺伝子解析の結果からFcγ受容体の遺伝子多型がレミケードの排泄へ関係していることが示唆されている。
クローン病でも同様の可能性が報告されており、Fcγ受容体の遺伝子多型がレミケードの血中濃度維持に影響を与えているかもしれない(金井ほか2012; 田中ほか2016)。

 

※:抗体( γグロブリン)の構造は、抗原結合部をもつFabとクラス特性を決めるFcの2つの領域からなる。

f:id:CD-Mo:20190215112659p:plain

抗体は、このFc部分の重鎖(タンパク質の一部)のタイプによって5つの主要なクラス(IgG, IgM, IgA, IgD, IgE)に分けられる。
IgGはFc部分のさらに細かい違いによってIgG1〜IgG4まで4つのサブクラスを持っている。
IgG分子の重鎖はγ鎖(IgMならμ鎖、IgAならα鎖・・という具合)と呼ばれる。
(野々山 2015*5Thermo Fisher Scientific の HP*6

ということで、
IgG1のFc領域とTNF-α特異性のFab領域からなるレミケードは、Fc部にγ鎖(Fcγ)を持っていることになる。 



 

続きは↓

cd-mo.hatenablog.com

 

*1:金井隆典, 松岡克善, 久松理一, 岩男泰, 緒方晴彦, 日比紀文, 2012, インフリキシマブ二次無効の機序と対策,治療方針. 日本消化器学会雑誌, 109, 364-369.

*2:久松理一, 2017, 主題I:炎症性腸疾患診療の最前線: Ⅱ.Crohn 病内科的治療の最前線. 日本大腸肛門病学会雑誌, 70, 601-610.

*3:田中信, 内山和彦, 髙木智久, 内藤裕二, 2016, 抗TNF-α抗体製剤の二次無効例への対処法. Intestine, 20, 145-152.

*4:穂苅量太, 好川謙一, 渡辺知佳子, 高本俊介, 東山正明, 三浦総一郎, 2016, 抗TNF-α抗体製剤におけるTherapeutic drug monitoring. Intestine, 20, 133-138.

*5:野々山恵章, 2015, IgG2、IgG3測定の意義. モダンメディア, 61, 15-17.

*6:Thermo Fisher Scientific, “免疫グロブリンの構造およびクラス”. Thermo Fisher Scientificホームページ, https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/antibodies/antibodies-learning-center/antibodies-resource-library/antibody-methods/immunoglobulin-structure-classes.html.