くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

IBD患者の新型コロナウイルス感染症について(Japan IBD COVID-19 taskforceまとめ第15報)

全国的に新型コロナウイルスの新規陽性者数が減少を続けており、ワクチンの先行接種も始まり、第3波も収まりが見えてきたのかなという時期にこんな文章をまとめる。
毎度のことだが、筆が遅いのでタイムリーな記事は書けないなぁと思う。

相変わらず、生物学的製剤やIBD関係と新型コロナウイルス関連のタームを合わせた検索が一定数あるようなので、
情報のアップデートと合わせて、今までの記事のタイトルの整理や、「新型コロナウイルス関連」のカテゴリーを独立させた。いつまでも残しておきたいカテゴリーでも無いので、この騒動が収まったら削除して「情報・知識」の中に吸収してしまいたい。

さて、これも毎回書いている内容だが、IBD患者の新型コロナウイルス感染に関する情報は、
厚労省補助金によるIBD研究班の新型コロナ特別チームが毎月10日前後にHP*1上で更新している。

いい加減なことが書いてあるかもしれないこんなブログよりオリジナルを読む方が良いのはもちろん、
著作権の問題がありグラフなどは載せられないので、このブログでは文字だけになってわかりにくい。私の文章より研究班HPのpdfファイルを見る方がよっぽどわかりやすいので、このブログでHPや報告書の存在を知った方は是非、オリジナルの報告も見て欲しい。

最近も傾向はほとんど変わらない

記事の書き方が毎回同じになってしまう気がするが、前回(第9報の頃)の記事のから基本的な状況は変化していない。

IBD以外の患者の場合と同じように、入院率、重症率、死亡率とも年齢が上がるほど高い傾向にある。

0-9才のみ周囲の年代より重症化率が高い傾向があるが、研究班の報告にあるように「母数が少ない(ex. 10人のうち1人が重症化すれば10%と出てしまう、これは1000人に100人が・・、というのとは意味合いが異なる)」ことが原因かもしれないし、
通常よりも若年でIBDを発症する患者は難治性であることが多く、身体が形成される時期であることも相まって、より高い年齢の患者よりも体力的に不利(;低栄養であったりで弱っている)な状態であるからかもしれない。

治療法別の入院率、重症化、死亡率なども、これまでの傾向(生物学的製剤のみ < 生物学的製剤+免疫調整剤 or 免疫調整剤のみ < ステロイド)は変わっていないが、
最近は入院率、重症化率、死亡率すべての値が下がってきている。
また、以前ほど大きな差は無いが、潰瘍性大腸炎の方がクローン病に比べて重症化・死亡率ともにやや高い傾向も変わっていない。


最近数ヶ月は変異株の出現が世界的に問題になっているが、変異株による感染者の多いヨーロッパの統計を加えても以前と同じ傾向であることは、感染力はともかく極端な強毒化は起きていないようである。

直近の傾向で異変があれば研究班のまとめの文言が変わったり、昨年の4月、5月のように追加の文章が加わるはずなので、パッと見では先月の物か今月の物かわからない定型文のような文章が載っているのは一安心だなと感じる。

後遺症について

新型コロナウイルスは感染後に後遺症が残る事が言われている。
海外では若い世代でも脱毛などの症状を発信している人がおり、その報道もされているので気にしている人も多いのではないかと思う。
日本での調査は夏頃に始まっているはずだが、年度末にまとめられると当時言われたきり音沙汰が無い(中間報告ぐらい出して欲しかった)。
そんな状況なので、当然、IBD患者についての後遺症も詳細は不明だ。

参考になりそうな資料としては、医療者向けの「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」(厚労省のHP*2からDL出来る)がある。
この手引きは2/19日現在で第4.1版(12/25発行)まで発行されているが、9月発行の第3版から後遺症(:2章の5節、症状の遷延)が短くだが記述されるようになった。
第3版(12ページ)ではイタリア、アメリカでの調査結果がまとめられ 、第4.1版(18ページ)には上記の内容に加えてフランス、日本での調査の結果も載っている。

それらをまとめると、
イタリアでの調査では143例中87%が、回復後から平均2ヶ月経っても何らかの症状を訴えているとされ、32%が1〜2つの症状、55%は3つ以上の症状がみられた。
アメリカの調査では270人中35%が2〜3週間経っても「普通の健康状態に戻っていない」と答えている。
フランスの調査では120人の回復者(発症から110日後)のうち、30%に記憶障害、睡眠障害、集中力低下がみられた。
日本での電話調査でも63人の回復者に60日、120日経った後でも呼吸困難などの症状が残る(※ 手引きには様々な症状の割合が示してあるが、複数の症状が出ている人もいるはずなので、各種症状を単純に足し合わせて良いわけではないのだろうから、全体の割合はよく分からない)ことがわかっている。


各国の調査結果をみると、どの国でも回復者の3割以上で後遺症が残っていることがわかる。
これらの結果だけでは後遺症の期間については「かなり長く続く可能性がある」としか言いようがない。感染症自体が発見されてからまだ1年程度しか経っておらず、信用できそうな国で統計調査できる患者数に達した時点からはもっと短い期間しか経っていないので、後遺症がどのくらいの期間で減衰していくのかはまだ誰にも分からないだろう。
日本の調査で見ると、肺にダメージがある場合には長引きそう(回復後60日から120日にかけての割合の減少が少ない)感じはする。

私の父はガンで亡くなったが、肺を病んで1/4ほどしか肺が機能しなくなってからは、筋肉は正常でも、ベッドからトイレに行くだけで息が切れるようになった。その状態で5年間過ごしたが、ガンの進行を抑えても彼の肺の機能が回復することはなかった。
そんな姿を見ているので肺の機能を一部でも喪失することは非常に怖いことだと思う。

「感染者の3割に少なくとも数ヶ月間の後遺症が残る」のは絶対に"タダのカゼ"なんかではない。軽症や無症状でも後遺症があるとする報道もあり(マスコミは事を大きく見せたがるので信用は出来ないが)、罹らないに越したことはない。


また、後遺症については英語論文がいくつも出ているが、私は専門家ではないので今後もそれらを紹介するつもりはない。アカデミックな英語が読める人もこの手の分野に詳しくないなら読むには少々注意が必要だ。
猛烈な勢いで世界的に研究が進んでいる分野なので、様々な研究成果や報告が次々に上がってくる。私は国際学会や会議に出ているわけではないので、各研究の問題点や議論のトレンドのような空気感が全くわかっていない。
否定された学説や測定データも研究に不正がない限りは取り下げられることはないので、私が目にした研究がその道の人達からは否定されていても気づけない(普通の研究者は間違った説をわざわざ否定するような非生産的な論文を書いたりしない)。
無責任に書いているブログだが、他の人の威を借りて、もっともらしい真偽不明の情報を流すことは良くないので、紹介するのは研究機関や厚労省が一般向けに公表している(相応の知識を持った専門家達が議論してまとめたもの)だけにしている。


全体的に入院、重症化の割合が下がっている理由はあるのか?

この章は引用が無い(= 同じ事を考えている専門家がいない)ことからも分かる通り、私の妄想に近い内容(蛇足)なので、鵜呑みにしないように注意されたし。
「データを見てそんな風に考える人もいるんだぁ〜」と思う程度の内容である。

 

研究班のまとめのグラフを見ていくと、年齢別でも治療法別でも入院率、重症率などの低下が見られる。
これは第15報に限ったことではなく、この何回かに見られている状況である。
この理由について考えることがあったのでついでに書いておく。


各割合の低下について、IBD研究班は簡潔に「症例数の増加に伴い低下傾向」との説明を繰り返している。
これは統計データを扱うときに良く耳にする説明で、サンプル数が増えていくと真実値に近づいていくという性質によるものだ。

サンプル数を増やす努力(測定数が足らず何度も追加の計測をするとか)をした事がある人なら分かると思うが、サンプル数を増やしていくと一方の傾向(下がり続ける or 上がり続ける)が続くことになりやすい。
ここ数回の研究班のまとめでも各種割合の減少傾向が続いている。

「ただの誤差ならバラつくはずだから、真実値を挟んでジグザグ(上がったり下がったりを繰り返しながら)に収束していくハズ。減少だけしていくのはヘン。他に理由があるのではないか?」と思うかもしれないが、そうでもない。
サンプル数が増えると、初期に出た大きく外れた値の効果が薄まっていくから、一方向だけの変化になりやすいのだ。
ビギナーズラックで大当たりしても、長くギャンブルを続けていくと一般的な収支に収束していくような感じだ(当たりを"外れで埋め合わせている"のでは無く、当たりを"普通が薄めていく"感覚)。
「サンプル数の増大に伴ってブレがおさまり、もっともらしい値に収束している」はそれだけでデータを無理なく説明できる。

ただ、それだけでは面白くない。人間というのはデータを見ると何か解釈を考えたくなる生き物である。
研究班は責任があるので根拠の無いいい加減なことは言えないが、私は何の責任も無いので他に理由がないか、3つほど考えてみた。

ひとつは、治療法の確立。
特効的な治療法はないが、感染初期の抗ウイルス薬の投与や重症者にはトシリズマブなどのサイトカインを抑制する薬剤の使用が有効であることがわかってきている。
前述の診療の手引きも版を重ねるごとに少しずつ厚くなっており、短い期間で症状や治療に対する知見が増えていっていることがわかる。
重症化しやすい患者を見極め、先手を打って治療できれば重症化や死亡率は少しは下がるだろう。また、昨年の4月などは考えられる様々な治療法が試されていた感(効果が出なかった種類のステロイドの投与なども試みられていた)があり、それらの中から比較的有効な物だけが選択されるようになったのならば、今は当時より治療成績は良くなっているだろう。
実際、日本の新型コロナウイルス患者全体で、夏以降、重症化率や致死率は徐々に下がっている。

ふたつ目は、怖い内容だが、死にやすい、重症化しやすい人がすでに感染し終わった可能性だ。
これは、破壊力学やセキュリティの分野で使われる最弱リンク説(weakest link theory)のような考え方だ。
「鎖を引っ張った時、ちぎれるのはもっとも弱い(Weakest)輪っか(Link)だ」と言ってしまうと蓋もないのだが、「系全体に負荷を掛けたとき、破れるのは常にもっとも弱い部分」という考え方はシンプルながら様々な物事に応用できる。

治療法別の各割合にはこの考えが適用できるかもしれないと思った。
重症化、死亡率などの値が大きく変わっているステロイド使用者だが、
その患者の内訳を考えると、生物学的製剤を使うまでもない軽症の患者(コントロール良好、体調も良い)と、二次無効や副作用で生物学的製剤が使えなくなったステロイドでしか治療できない患者(コントロール不良、体調も良くない)が混在していることが考えられる。
コントロール不良の患者は通院や入院の機会も多いだろうし、体調も悪く、感染しやすい傾向にあったのではないか。それが初期に重症化・死亡率を引き上げ、そのグループの感染が一段落して数値が落ち着いてきた可能性があるのではないか。

また、感染者数が極端に多いアメリカの特性が統計全体の傾向を引っ張っている可能性もある。
国民皆保険制度の無いアメリカでは経済的な理由で高価な生物学的製剤を使用できず、比較的安価なステロイドによって治療を続けている群が存在するだろう。
それらの人は感染が拡大している状況でも働き続けねばならなかっただろうし、症状が出ても治療を遅らせる傾向があるので、予防することが一般的では無かった感染爆発初期の時期に重症化、致死率を押し上げた可能性もある。

最後は統計データの質が変わっていないか?という問題。
統計データというのはちゃんと考えていくと上手に取るのが難しいものだ。
今回の問題で言えば、死亡・重症化・入院率の分母をどうするかという問題がある

分母は感染者数とするのが普通だろうが、この場合でも、PCR検査が不足していた初期の頃には感染者数が少なく見積もられ(軽症例は見逃しているかも)ている可能性がある。もしそうなら、疑わしい例まで検査できるようになった最近の方が分母が大きくなり、各種割合は見かけ上、小さくなったように見えるはずだ。
また、検査数を急激に増やすと精度が落ちる可能性もあり、そこも問題になる。

PCR検査での陽性者を分母とするともうめちゃくちゃになる。
全数調査でもしない限りその地域にいる陽性者数なんてわかりようがないので、検査をして出てきた陽性者数を分母にしようものなら意味のわからない割合になってしまう。
各国の感染者の定義は一貫して共通しているのだろうか?


統計データという物は取ってしまうとそれらしく見える。
ただ、その意味の解釈はかなり難しいことがある。人間の性質が邪魔をして感覚とデータが合わないことも多々ある。
生活の中でグラフを見る度に思うのだが、ちゃんと頭を使って見ていくのは難しい。


*1:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班, “Japan IBD COVID-19 taskforce”, 令和2年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班ホームページ, http://www.ibdjapan.org/task/index.html

*2: 厚生労働省, "医療機関向け情報(診療ガイドライン、臨床研究など)", 厚生労働省ホームページ, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00111.html