くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

レミケードの使い方の変化:変わっていく治療法 その1(1/2)

レミケードがクローン病の治療に大きなインパクトを与え、強力な治療の選択肢であることは以前も今も変わらない評価であるが、その使われ方や治療戦略はこの20年足らずの間に変化している。
レミケードのことを調べていると時々目にするエピソディック投与やTop-down治療の現在について調べてみた。


・投与間隔の違い:エピソディック投与と維持投与

レミケードについてあまりよく知らなかった時期は、「状態が良くても定期的に投薬を行わなければいけない」ことに抵抗があった。
症状が出ていないのに体内に薬剤を入れ続けることが良くないことのように思えて、「炎症物質(サイトカイン)を中和する薬なら、症状が出たときにのみ入れるのではダメなのか?」と思っていた。

実際、レミケード治療で最初に保険適用になったのはエピソディックな治療(症状が出たときのみレミケードを投与し、症状が治まれば投与を中止する治療の仕方)であり、寛解導入のためだけにレミケードを使っていた時期があった。

しかし、現在はエピソディックな投与は維持療法(最初の3回以降は8週間間隔でレミケードを投与し続ける)に比べて治療成績で劣り(久松・日比, 2009*1)、リスクもあるとして行われなくなっている。

以前書いた二次無効の原因の記事にもあるが、
レミケードの投与を不定期に行うと抗インフリキシマブ抗体(レミケードに対する抗体)が出来やすくなってしまうのだ。
エピソディック投与では、レミケードが完全に血中から無くなった後に再投与されるので、免疫系が異物として認識するスイッチが入りやすいということである。

また、関節リウマチでの例だが、松本(2009)*2には、

また,2 年間以上の中断後の再投与時に重篤な投与時反応が報告されているため,長期間の休薬後の再投与時には慎重に投与することが望ましい

という記載がある。
橋本・佐野(2018)*3でも、2年以上の休薬後には投与時反応の出現率が有意に増加していると述べられており、
不定期の投与は二次無効だけでなく、投与時のアレルギー反応の面でもリスクがある。

現在のレミケードによるクローン病の治療では休薬を行うことはないが、妊娠中や手術前には休薬期間を設ける可能性がある。

 

レミケードは催奇性や胎児毒性は無いとされており妊娠中の全期間や授乳期間中も使用できる(高井・村島 2019*4)が、
妊娠22週以降に使用した場合は、児の血中から抗TNF-αが検出されなくなる出生後6ヶ月までは生ワクチンの接種を控えることが推奨されている(生ワクチン以外は可、児の発達にも影響しない)(伊藤, 2019*5)。
妊娠時の休薬については、母体のコントロールを最重要とし、再燃のリスクの低い非活動期の場合に個別に検討する(渡辺ほか, 2019*6)とされている。

生物学的製剤の使用と手術部位感染発生率には、関節リウマチの分野で複数の報告があり、
人工関節手術において生物学的製剤非使用群と使用群を比較すると、使用群が有意にリスクが上昇するとの報告があり、感染症に十分に注意し、術前に薬剤の投与間隔や半減期を考慮した休薬期間を設けることが推奨されるとしている(高井・村島, 2019)。

また、関節リウマチの分野では2010年頃から、ドラッグホリデー、ドラッグフリー寛解、バイオフリー寛解など様々に呼ばれる、
「生物学的製剤を休薬しても寛解状態を維持する症例」の報告(田中 2011*7; 平田2018*8)が複数されており、生物学的製剤の減量・休薬の可能性が研究されている。

クローン病の分野では、休薬と寛解維持に関する報告は少なく、研究も進んでいないため、休薬はリスクの高い行為である(伊藤, 2019)が、
将来、クローン病でもバイオフリー寛解を目指せる症例や因子が分かってくるならば、生物学的製剤の休薬後の再使用問題は重要な話題になってくるだろう。

 

続きは↓

 

*1:久松理一, 日比紀文, 2009, 炎症性腸疾患治療における生物学的製剤の現状. 日本臨床免疫学会会誌, 32, 168-179.

*2:松本功, 2009, 特集 膠原病・リウマチ性疾患診療のより深い理解を目指して III. 治療のために 6. 生物学的製剤の開始を考慮するときの留意事項. 日本内科学会雑誌, 98, 2518-2523.

*3:橋本哲平, 佐野統, 2018, <生物学的製剤を極める> 1. インフリキシマブ. Modern Physician, 38, 935-937.

*4:高井千夏, 村島温子, 2018, <使い方と実践>3 周産期, 周術期などにおける使用. Modern Physician, 38, 990-991.

*5:伊藤裕章, 2019, V 炎症性腸疾患の内科診療 6. 抗TNF-α抗体製剤 −インフリキシマブ. 臨牀消化器内科, 34, 131-136.

*6:渡辺知佳子, 三浦総一郎, 穂苅量太, 2019, 炎症性腸疾患患者の妊娠症例. 臨牀消化器内科, 34, 232-238.

*7:田中良哉, 2011, 関節リウマチ診療のパラダイムシフト. 日本内科学雑誌, 100, 1978-1986.

*8:平田信太郎, 2018, <使い方と実際>5 バイオホリデーの可能性. Modern Physician, 38, 994-995.