くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

レミケードの一次無効について

二次無効があるのに一次無効の記事がないのも気持ち悪いと思い、一応まとめてみる。

一次無効とは、
"初回投与から治療反応性が見られない"症状(遠藤ほか2012*1)のことである。

最初の3回の投与で効果が見られない場合にはこの一次無効であるとされ、他の治療法を考慮することがレミケードの添付文書にも書かれている(レミケード添付文書2ページ*2)。

 

クローン病での一次無効の頻度は、25〜40%程度(遠藤ほか2012)、12.4%(本谷ほか2012*3)、約20%(日比・久松 2013*4)約2-3割(久松 2017*5)などとされている。

関節リウマチでの発症確率がいくつかの文献で12%前後(12.8%: 亀田ほか2008*6, 12.2%: 吉岡ほか2010*7)と報告されている。

クローン病の方が発症率が少し多いようにも見えるが、報告によってバラつきも大きく、母集団が少ない(関節リウマチはクローン病より患者数が一桁大きい = 治療の症例も多い)ための誤差かもしれない。
あるいは、関節リウマチとクローン病で投与量が異なること(リウマチ3mg/kr, クローン病5mg/kg)なども影響しているかもしれないが、いずれにせよ、疾患を比較した報告は見つけられなかった。

クローン病でのレミケードの一次無効に関しては、
多くの報告では発症の割合が記載されているだけで、詳しいことや症状が出た場合の対処は書かれていないが、久松(2017)は一次無効の要因を2つの場合に分け、対応を記している。

場合分けの一つ目は、
TNF-α(レミケードのターゲットとなるサイトカイン)以外の経路が強く関与している場合で、その場合には抗TNF-α抗体製剤であるレミケードは効果を発揮しない可能性があるとしている。

もう一つの場合は、
腸管合併症が存在する場合で、狭窄や複雑瘻孔が進行した状態ではレミケードが有効性を示さない可能性を指摘している。


それぞれの場合に対する対策としては、
前述の一つ目に対しては、
レミケードの使用は止め、経腸栄養療法、ステロイドによる寛解導入後に免疫調整剤を使用、のような既存の治療法の再検討や、
TNF-α以外のサイトカインを標的とするステラーラの使用が挙げられている。

二つ目の要因には、
クローン病との診断が確立している患者であってもレミケード導入前に上部消化管も含めた病変範囲や肛門病変の有無、狭窄や瘻孔の有無を必ず再評価すべきであるとしている。


また、遠藤ほか(2012)では、
クローン病の感受性遺伝子とは別に、一次無効に関連する遺伝子の存在が挙げられており、
活性化しているサイトカインの種類に関係なく、レミケードが効果を発揮できない体質があることが示唆されている。



私の治療はレミケードからヒュミラに移ってしまったので、レミケードの知識はもうあまり増やす気はないのだが、
それでも、世界中で数百万人が使用した実績*8のある生物学的製剤の先駆者のひとつであり、長期使用や副作用について安定した統計データを提供し続けているレミケードから学ぶことはまだ多そうだ。
レミケードで得られた結果が他の生物学的製剤にそのまま当てはまるわけでは無いが、長期使用の影響などについては今後の他剤の使用の判断指標になり得ると思っている。
生物学的製剤や分子標的療法は21世紀の新しい治療で、長く使った人は存在しない。自分も次世代のためのある種のモルモットであると思いながら、優れた効果だけでなく治療後の長期経過は注視しなければいけない。

生物学的製剤は、免疫原性の低下を目指すなど今も薬剤自体の改良が続けられている。レミケードから得られる情報が役に立たなくなるほど改良の進んだ薬が早く現れてくれると良いのだが・・。


*1:遠藤克哉, 諸井林太郎, 高橋成一, 木内喜孝, 下瀬川徹, 2012, クローン病に対するインフリキシマブの治療成績と遺伝子多型との関連. 消化器内科, 54, 77-82.

*2:添付文書 抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤レミケード点滴静注用100. 第35版, 田辺三菱製薬, 2018年8月, 1-12.
https://medical.mt-pharma.co.jp/di/product/rec

*3:本谷聡, 山下真幸, 田中浩紀, 今村哲理, 2012, チオプリン系免疫調整薬併用によるインフリキシマブ計画的維持投与での二次無効回避と長期寛解維持. 消化器内科, 54, 34-39.

*4:日比 紀文, 久松 理一, 2013, 招請講演4.炎症性腸疾患の病態解明と治療の進歩. 日本内科学会雑誌, 102, 2195-2213.

*5:久松理一, 2017, 主題I:炎症性腸疾患診療の最前線: Ⅱ.Crohn 病内科的治療の最前線. 日本大腸肛門病学会雑誌, 70, 601-610.

*6:亀田秀人, 関口直哉, 長澤逸人, 天野宏一, 竹内勤, 2008, 最初の生物学的製剤に不応または有害事象発現時の対応. 臨床リウマチ, 20, 250-253.

*7:吉岡裕, 金物寿久, 石川尚人, 2010, 関節リウマチ患者における生物学的製剤1次無効例の検討. 中部日本整形外科災害外科学会雑誌, 53, 1267-1268.

*8:田辺三菱製薬, “関節リウマチの治療薬 レミケード”, リウマチ21.info, https://www.riumachi21.info/patient/remicade/text02.html