くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

新型コロナウイルス感染症の治療に使われるかもしれない生物学的製剤

先週、「重症化した新型コロナウイルス感染症の治療にリウマチ薬が効果か」というニュースを何度も耳にした(例えばNHKのNews Web*1, *2)。

関節リウマチの治療と言えば、近年の主力は生物学的製剤。ニュースで流れてくる薬の一般名もトシリズマブ。
○○マブと言われて生物学的製剤!(レミケード=インフリキシマブ、ヒュミラ=アダリムマブ)とすぐにピンとくるようになったのはクローン病患者としてのキャリアを積んだ(?)よなぁと思う。

数ある抗体製剤のなかでも、なぜトシリズマブなのか?と思い、手元にある生物学的製剤の特集号で調べてみた。


関節リウマチの治療には10種類以上の生物学的製剤が使われていて、
その標的となる分子も、サイトカインのTNF-α、IL-6や、白血球(B細胞類)のCD80/86、CD20と様々で、問題となる細胞を攻撃するモノクローナル抗体、受容体に作用するタイプなど多様な種類がある(金子・竹内 2018*3

そのなかでトシリズマブは、IL-6の受容体に対するモノクローナル抗体である。
関節リウマチの治療では、TNF-α阻害剤より関節症状の改善に時間がかかることや、メトトレキサート(リウマチ治療の第一選択薬で生物学的製剤との併用も多い)の併用無しで効果が出ること、
一方で、感染症に伴うCRPの上昇が妨げられ、自覚症状も感じにくくなる(重症化しやすいかも)ことが言われている(緒方 2018*4)。

さて、ここまでは普通の生物学的製剤なのだが、
特筆すべきは、
ガンの腫瘍免疫療法、CAR-T細胞療法で問題となっていた、サイトカイン放出症候群のコントロールにトシリズマブが顕著な効果を示した(緒方 2018)ことで、
これは日本でも確認され、2019年に効果が承認されている(中外製薬ニュースリリース*5, *6)。

新型コロナウイルスによる肺炎でも、重症化する原因の一つはサイトカインストームではないかと疑われており、血中サイトカイン濃度の上昇を抑えた実績のあるトシリズマブに白羽の矢が立ったようだ。

サイトカインストームとサイトカイン放出症候群とは厳密には別の現象である*7, *8)ので、期待する効果が得られるのか、また、感染症の患者に対して投与する場合の危険性は不明なので、今後慎重な調査が行われるだろうが、
重症化した場合が特に怖い新型コロナウイルスに対抗策が出来るかもしれないのは大きな希望だ。




思いもよらなかったところから(当てずっぽうではなく)新たな治療法が出てくる。これが科学の優れたところだなぁと思う。
免疫機構の研究のように「すぐに役に立たない(ように見える)研究」がリウマチとガン、感染症の治療を結びつけられる。
コロナもそうだが、クローン病の新しい治療もすでに存在していて、こちらと手を結ぶのを待っているのかも。などと期待してしまう。

*1:NHK, “NHK NEWS WEB 肺炎の重症化 “免疫の暴走”抑える薬で治療可能か 新型コロナ”, NHKホームページ, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200417/k10012392101000.html

*2:NHK, “NHK NEWS WEB製薬各社 新型コロナ治療薬の開発や既存の薬の有効性確認急ぐ”, NHKホームページ, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200423/k10012401331000.html

*3:金子祐子, 竹内勤, 2018, <内科疾患における生物学的製剤の使い方>2. 関節リウマチ. Modern Physician, 38, 919-921.

*4:緒方篤, 2018, <生物学的製剤を極める>6. トシリズマブ. Modern Physician, 38, 949-950.

*5:中外製薬, “「CAR-T細胞輸注療法に伴うサイトカイン放出症候群」に対する「アクテムラ®」の効能・効果追加の承認申請について”. 中外製薬ホームページ, https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20180529100000_17.html

*6:中外製薬, “「アクテムラ点滴静注」 サイトカイン放出症候群に対する適応拡大および用法・用量の追加承認のお知らせ”. 中外製薬ホームページ, https://www.chugai-pharm.co.jp/news/detail/20190326160001_827.html

*7:羊土社, “サイトカインストーム”.実験医学online, https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/2744.html

*8:羊土社, “サイトカイン放出症候群”.実験医学online, https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/2745.html