くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

治療法ごとの新型コロナウイルス感染症の重症化リスク 続報(Japan IBD COVID-19 taskforce第3報)

これよりも新しい内容の記事はこちら↓


先週の記事
で書いた、IBD研究班の新型コロナ特別チームの5/2付けの現況のまとめ(Japan IBD COVID-19 taskforce 第3報)がHP*1に掲載されている。

第2報とあまり変わらない部分

感染数の年代分布は、第1報では若年者(20代)が多かったが、時間を経るごとに壮年(30〜40代)の患者数も増えている(Japan IBD COVID-19 taskforce 第3報、3ページ)。
ただ、入院患者の年齢分布や重症化率は既報の傾向とほぼ変わらないので、壮年で特別何かが起きているわけではなさそうである。
また、高齢ほどリスクが高い状況も変わらずだ。

疾患別に見てみると、依然として潰瘍性大腸炎を患う感染者の方が死亡率は高い状態であるが、潰瘍性大腸炎では時間的な変化はない(傾向が良くも悪くもなっていない)。
一方、クローン病患者では時間を追うごとに集中治療室、人工呼吸器使用の割合が増えている(Japan IBD COVID-19 taskforce 第3報、4ページ)。

少し変わった部分

治療別の重症化率については、第2報よりも治療の種類が増えている(Japan IBD COVID-19 taskforce 第3報、5, 6ページ)。
anti-integrin(α4インテグリン抗体 ナタリズマブやα4β7インテグリン抗体 ベドリズマブ; エンタイビオ のことか?)、IL 12/23inhibitor(ウステキヌマブ; ステラーラ)、JAK阻害薬(潰瘍性大腸炎の治療薬 トファシチニブクエン酸塩;ゼルヤンツのことか? )の3種の治療が加わって、8種の治療法について重症化率が調べられている。

第2報までに登場した5種類の治療法(ステロイド、免疫調整剤、抗TNF-α製剤など)については第3報でもほぼ傾向は変わらない(特にサンプル数の多い入院率はほとんど前回と同じ値である)。

新しく加わった治療法については、IL 12/23阻害薬の重症化率は、抗TNF-α製剤単剤の場合と同じくらい低く、
anti-integrinはそれらよりやや高く、免疫調整薬を使っている場合と同じくらいの重症化率、
JAK阻害薬は重症化しやすいようにも見えるが、サンプル数が少なく(10例程度か)数値が安定していない。と、なっている。


大きく増えたのはQ&A

第3報は、データの分析はそれほど大きく変わることはない(傾向が安定してきている)が、
Q&Aの部分はかなり充実した。7ページ以降、26ページまですべてQ&Aである。
各治療法について、感染が疑われる場合などにどうすべきかを中心に6つのQ&Aとその根拠資料が引用が載せられている。

Q&Aの前の冒頭部分には、IBD患者のコロナウイルスへの感染・重症化についての全般的な姿勢が記されている。内容は大まかにはこれまでと変わらないが、より踏み込んだ記載がされている。

  • IBD患者の新型コロナウイルス感染症の発症・重症化リスクが上昇するという科学的な証拠はない
  • 現時点ででは発症・重症化の最大のリスクはIBDの症状の悪化にあると考えられている
  • そのため、寛解期ならば現行の治療を継続して良い状態を維持し、活動期であるならば自身の状態や薬の安全性を考慮しながら速やかな寛解導入を目指した治療を行う必要がある

ということだ。

その他のQ&Aの要約としては、

  1. 5-ASA製剤は新型コロナウイルス感染症の重症化に関連するか?(7ページ Q7.)
    → 重症化リスクを上げる可能性は低いだろう。感染者と濃厚接触があった場合でも5-ASA製剤の使用を中止する必要はない

  2. 全身ステロイド投与中のIBD患者の重症化リスクは?(9ページ Q8.)
    ステロイド治療中の重症例が多い傾向があり留意すべきだが、ステロイドが受重症化因子であると直接的に示したものは無く、この結果には国や施設の治療状況が影響している可能性があるので、慎重に解釈すべき。
    とは言っても、安易なプレドニゾロン全身投与はできる限り避け、他の寛解導入治療を考慮する。ただし、病状から全身投与が必要と判断される場合には充分な量を投与し、できるだけ速やかに効果判定、減量を試みるべき。

  3. 全身ステロイドと比較してブデソニド(腸管局所で作用)ならばリスクは軽減されるか?(12ページ Q9.)
    → 理論的には投与中の感染リスクは低いと考えられるが、ブデソニド治療中の患者でも重症化例が多い傾向がある。
    現時点では、全身ステロイドからブデソニドへの変更でリスク軽減がされるかは明らかで無く、
    全身ステロイドの場合と同様、漫然とブデソニドを使うべきで無く、寛解導入後は速やかな減量をすべきだろう。

  4. 免疫調整薬内服中のIBD患者では重症化リスクは高くなるのか?(14ページ Q10.)
    → 現時点ではチオプリン製剤やメソトレキセートによる気道感染症のリスク上昇の明らかな証拠はない。安易な薬剤の中止をしないように。
    とはいえ、免疫調整治療中のIBD患者は重症化率が高くなる傾向が見られるので、外来受診時の血液検査で白血球の減少などに注意を払うべき。
    現時点では、免疫調整薬治療中に新型コロナ患者との濃厚接触があった場合には2週間は免疫調整薬の投与を中止する。免疫調整治療中の患者が新型コロナウイルスに罹患したと場合にはウイルスの陰性が確認されるまで免疫調整薬の投与中止を考慮する。という提案がなされている。

  5. 生物学的製剤投与中の重症化リスクは高くなるのか?(18ページ Q11.)
    → 抗TNFα製剤について
    抗TNFα製剤投与中の患者が多いにもかかわらず単独投与者の重症化率は低い傾向にある。免疫調整薬との併用ではやや上昇する。
    重症化リスクを下げる観点から、免疫調整薬との併用で臨床症状が治まっている患者のうち、内視鏡寛解がすでに得られている あるいは、 高齢患者の場合には併用中の免疫調整剤の使用中止を考慮しても良いかも。
    →  抗TNFα製剤以外の生物学的製剤について
    ウステキヌマブやベドリズマブが呼吸器感染症を含む重症感染症リスクを高めるという報告は無い。
    よって、臨床的寛解の状態にあるならば、これらの薬物の中断を考慮する必要はない。ベドリズマブ投与患者でやや入院率が高い傾向が認められているがこれは今後の経過を注意深く追っていく必要がある。

    →→ 現在提案されている生物学的製剤治療者の感染時の対応は、
    感染者と濃厚接触した場合には予定投与日から2週間投与を延期する。生物学的製剤による治療中の患者が新型コロナウイルスに感染した場合にはウイルスの陰性が確認されるまで抗TNFα製剤を一時中断する。 というものがある

  6. JAK阻害剤投与中のIBD患者の重症化リスクは高くなるのか?(23ページ Q12.)
    IBDの分野で使われているJAK阻害剤はトファシチニブクエン酸塩(TOF)である。
    重症化率が高い傾向を示すデータが出ているが、症例数が少ないので今後の経過を追うことが重要(まだ判断できない)。
    重症化については、悪いデータばかりでは無く、良い方向(治療を継続した患者で、IBD症状を抑えたまま呼吸器症状が改善した例)に働くとの考え、症例も出てきているのでそういう意味でも今後の経過を見て慎重に判断すべき。
    現在提案されている対処は、
    JAK阻害剤治療中のIBD患者は、TOF10mgの一日2回投与で治療中の場合、TOF5mgの一日2回投与への減量を考慮する。感染者と濃厚接触した場合には2週間程度の内服中断を考慮する。JAK阻害剤治療中のIBD患者が感染した場合は、ウイルスの陰性が確認されるまでJAK阻害剤治療を一時中断する。 というものがある。


*1:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班, “Japan IBD COVID-19 taskforce”, 平成31年度 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班ホームページ, http://www.ibdjapan.org/task/index.html