くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

レミケードはいつまで効くのか? その2(2/2)

「レミケードはいつまで効くのか? その1」から続きの内容なので、「二次無効ってなんだ?」という人は下記の「その1」からどうぞ。

cd-mo.hatenablog.com


・二次無効の兆候を捉えることはできるのか?

レミケード後に体調が悪くなったとして、それが二次無効によるものなのか、他の要因によるものなのかが見分けられないと、対処が遅れたりいたずらに危機感を募らせることにもなり、よろしくない。
また、二次無効が起きる兆候がつかめるだけでも次の対応をするための時間的・精神的な猶予が生まれる。
二次無効を定量的に調べる方法や発症する前兆を捉えられないだろうか。

結論から先に述べると、現時点では有効な方法は無い、である。

調子が下がってくる頃になると「血中のレミケード濃度が分かれば良いのに」といつも思うのだが、当面は日本で定常的にレミケードの血中濃度を測定することは難しいようだ。

長沼ほか(2012)*1では "現時点ではインフリキシマブの血中トラフ濃度測定は国内では不可能である" と記述しており、
穂苅ほか(2016)*2でも同様に "インフリキシマブ/アダリムマブの血中濃度測定ができない現在の診療現場では、・・・" と述べている。
血中濃度測定のため血液を海外に送るという記述も見られるので、研究機関であっても容易に測定できる環境ではないようだ。

「レミケードに対する抗体の量は指標にならないか?」という考えに対しては、
関節リウマチでの研究では否定的な報告がなされており(日経メディカル Online*3)、抗TNFαに対する抗体の有無は二次無効の予測には使えない(日経メディカル Online*4)とされている。
クローン病においても、抗インフリキシマブ抗体(レミケードに対する抗体)の有無とレミケードの臨床効果の関係に関して様々な報告がされているが、一定の見解はまだ得られていないとされている(穂苅ほか, 2016)。

遠藤(2011)*5では

現在,infliximabが必要な症例を適切に選別するような予後予測因子・バイオマーカーは明らかになっていない

と明確に述べており、二次無効どころかレミケードの効果の事前予測すらも難しい(使ってみないと効くのか分からない)とされてきた。

しかし、希望の持てる研究成果も報告されている。
Hibi et al.(2014)*6が、二次無効の見られた患者にはレミケードの血中濃度低下の前にCRP値の上昇が見られたことから、CRPが効果減弱の指標になりそうであると報告していたり、
CRPとレミケードの血中濃度、抗TNFαに対する抗体濃度の組み合わせによって効果減弱の予想ができそう(Roblin et al., 2015*7)という結果も出始めてきており、簡便に二次無効の有無を測定・予測しようという試みは続いている。

また、直接的に二次無効を測定するものではないが、
関節リウマチの分野ではレミケードの血中濃度を測定するキットが2017年10月から保険適用になっており、治療に活かされ始めている(平山・竹内, 2018*8)。
キットが発売されていると言うことはレミケードの血中濃度測定が治療に有効であるということで、それはクローン病でも同じであろうから、
クローン病患者でもレミケードの血中濃度測定ができる日はそう遠くないのかもしれない。

別の方向からのアプローチとしては遺伝子を用いたオーダーメイド医療の可能性も研究されている。
遠藤ほか(2012)*9ではインフリキシマブと遺伝子多型の関係に関する近年の研究成果をまとめており、
現在はまだ臨床に適用できる状態ではないが、将来的には遺伝子検査によってレミケードの治療効果の予測が可能になったり、症状や体質に合った最適な生物学的製剤の選択ができる可能性を示唆している。

・いつ二次無効の症状が現れるのか?

二次無効やレミケードの効果の予想について可能性を感じさせる結果が出ているといっても、現在のところは誰にいつ起こるかは分かりそうもないので、
「いつ二次無効の症状が現れるか?」は統計データを元にした確率論になる。
運が良ければ10年経っても問題なく使え、運が悪いと1年で減弱することもあり得るということだ。

そこで、なんの対処もせずにレミケードを使い続けられるにはどのぐらいの運が必要かを考えてみる。

いくつかの資料で示されているおおよその値、『年間1割の発症(前年の母集団のうち1割に二次無効が発症する)』で計算すると、
レミケードでの二次無効が起きない確率は、3年で73%、5年で59%、10年で35%、15年で21%ということになる。

長期間の統計データである横山(2017)*10の結果(455ページの図2)を使うならば、グラフはほぼ線形で減少しているように見えるので、
二次無効が起きない確率は5年で65%、10年で30%、15年程度で確率はほぼ0%というように見える。

これらの数値を高いとみるか、低いとみるかは個人の受け取り方だが、
身近な確率の例として、近年の天気予報(降水の有無の予報)の的中率が80%前後*11だと聞くと、「結構イケそう」と思っていた自信が途端にしぼむかもしれない。
80%でも意外に(10人に2人は)外れるのだ。

私の場合は、自分が特別運が良い方だとは思えないので、
一次無効が出なかった幸運も加味すると「3年保ったらいいなー。5年も保ったら御の字だなー」ぐらいに考えている。

 

 

*1:長沼誠, 藤井俊光, 渡辺守, 2012, 粘膜治癒・長期予後の面からみた難治性炎症性腸疾患の治療戦略. 日本臨床免疫学会誌, 35, 99-106.

*2:穂苅量太, 好川謙一, 渡辺知佳子, 高本俊介, 東山正明, 三浦総一郎, 2016, 抗TNF-α抗体製剤におけるTherapeutic drug monitoring. Intestine, 20, 133-138.

*3:宇田川久美子, "学会ダイジェスト:第71回米国リウマチ学会・年次集会 抗インフリキシマブ抗体の存在は必ずしも効果不十分の原因とはならない". 日経メディカル Online, 2007年11月12日, https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/acr2007/200711/504743.html.

*4:宇田川久美子, "学会ダイジェスト:第72回米国リウマチ学会抗インフリキシマブ抗体値の上昇は二次無効の予測因子とならない". 日経メディカル Online, 2008年10月31日, https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/acr2008/200810/508382.html.

*5:遠藤克哉, 志賀永嗣, 角田洋一,高橋成一, 木内喜孝, 下瀬川徹, 2011, 生物学的製剤によるクローン病寛解維持療法 ―infliximab 計画的維持投与の治療効果を中心に―. 日本消化器学会雑誌, 108, 401-409.

*6:Hibi, T., Sakuraba, A., Watanabe, M., Motoya, S., Ito, H., Sato, N., Yoshinari, T.,  Motegi, K., Kinouchi, Y., Takazoe, M., Suzuki, Y., Matsumoto, T., Kawakami, K.,  Matsumoto, T., Hirata, I., Tanaka, S., Ashida, T., Matsui, T., 2014, C-reactive protein is an indicator of serum infliximab level in predicting loss of response in patients with Crohn’s disease. Journal of Gastroenterol, 49, 254-262.

*7:Roblin, X., Marotte, H., Leclerc, M., Del Tedesco, E., Phelip, J. M., Peyrin-Biroulet, L., Paul, S., 2015, Combination of C-reactive Protein, Infliximab Trough Levels, and Stable but Not Transient Antibodies to Infliximab Are Associated With Loss of Response to Infliximab in Inflammatory Bowel Disease. Journal of Crohn's and Colitis, 9, 525-531.

*8:平山由美子, 竹内勤, 2018, 関節リウマチにおける生物学的製剤: 血清中インフリキシマブ濃度検出法の有用性. モダンメディア, 64, 1-5.

*9:遠藤克哉, 諸井林太郎, 高橋成一, 木内喜孝, 下瀬川徹, 2012, クローン病に対するインフリキシマブの治療成績と遺伝子多型との関連. 消化器内科, 54, 77-82.

*10:横山純二, 2017, 生物学的製剤が炎症性腸疾患の診療をどう変えたか一現状と課題. 新潟医学会雑誌, 131, 453-457.

*11:気象庁, "天気予報検証結果". 気象庁ホームページ, https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/data/kensho/score_f.html