くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

レミケードの二次無効への対策は? その1(1/3)

以前の記事でも書いたが、二次無効の原因が『レミケードの血中トラフ濃度の低下』であると考えられている。
そのため、その対処はレミケードの血中濃度を下げないようにすることに焦点が当てられている。

レミケードの血中濃度を維持する具体的な方法としては、レミケードの増量(倍量投与、投与期間の短縮)と、他の治療法とレミケードの併用が挙げられる。

一度にすべてを書くと長くなりすぎるので3分割するが、
本稿と次稿ではレミケードの血中濃度を維持する(主にTNF-α亢進に対する)ための対処法を、
その3ではレミケードが機能しない(抗レミケード抗体が出現、TNF-αが関与しない)場合の対処を記載する。

 

1. レミケードの増量

1-1. 倍量投与

レミケードは標準的な投与量は体重1kgあたり5mgであるが、これを倍の10mg/kgで投与するという方法である。

海外の報告では、「倍量投与を行った二次無効症例のうち90%(36/40例)が効果を回復した」、
「倍量投与を行った症例のうち71.5%の患者で通常量へ戻すことができた」のような良好な成果を上げている(金子ほか, 2012*1)。

国内の報告でも有効性が示されており、「倍量投与後8週間での改善率69.7%、寛解率39.4%(39例)」や「倍量投与後に標準的な投与量への減量が可能だった患者は12.5%」といったものがある(田中ほか, 2016*2)。

 

1-2. 期間短縮

こちらは、5mg/kgの投与を4週間間隔で行う(標準では8週間間隔)ことでレミケードの血中濃度の低下を防ぐ方法である。2017年から日本でも行えるようになった(田辺三菱製薬プレスリリース*3)。

国内での研究成果で「難治性のクローン病患者に対して期間短縮してレミケードを投与したところ40%で再寛解にいたった」という成果が得られていたり、
海外では「二次無効症例に対して、倍量投与と期間短縮投与を行った場合の効果はほぼ同等である」という結果が出ている(田中ほか, 2016)。

金井ほか(2012)でも投与期間を短縮した26例のうち10例(38.5%)で有効であったと報告している。

2. 既存の治療法との併用

2-1. 免疫調整薬との併用

既存の治療法との併用で広く行われているのがこの免疫調整薬との併用である。
欧米での研究結果も多く、関節リウマチの治療でも抗レミケード抗体の発生を抑えるために用いられることがある(例えば東京女子医大HP*4)。

ただし、効果や問題点についての議論が収束しない方法でもある。

 

歴史的にも併用の有無が推奨されたり否定されたりを繰り返した過去がある。

加藤(2016)*5の中でその経緯がまとめられている。
レミケードがクローン病の治療薬として出始めた時期にはepisodic治療(再燃時のみレミケードを投与する治療法)が行われており、episodic治療+免疫調整薬の組み合わせは、レミケード単剤投与と比較して有意に治療効果が上がった。そのため併用が推奨されていた。

その後、レミケードのscheduled maintenance治療(寛解維持のため定期的にレミケードを投与する治療法)が主体となってくると、「episodicな投与をしないこと」の方が抗レミケード抗体の抑制に効果があることがわかった。
また、レミケード・免疫調整薬併用患者に脾臓T細胞リンパ腫がごくまれに発症するという報告も出てきたために、レミケードの単剤(併用するにしても1年以内の短期間)投与が推奨されるようになった。

2010年に詳細な比較試験が行われると、それまでの予想に反して免疫抑制剤+レミケードの定期投与が、レミケード単剤、免疫調整薬単剤と比べて有意に治療効果が高い(※「レミケード・免疫調整薬ともに初めて使用する病歴の浅い患者に同時に使用開始した場合」のみの成果であることに注意)ことが明らかにされ、再び併用が注目を浴びるようになり、現在に至っている。

 

国内の報告でも併用に関する統一した見解は得られておらず、
例えば、井上・緒方(2010)*6や遠藤ほか(2011)*7は「長期の併用による寛解維持効果は得られなかった」とする先行研究などを引用して併用に慎重な立場であるのに対して、
本谷ほか(2012)*8は、併用による二次無効回避の成果を強調し、副作用のリスクを過大評価することで治療の選択肢を減らすべきではないとしている。

 

二次無効と免疫調整薬の併用に関しては、
加藤(2016)が先行研究より、二次無効が発症した患者に後付けで免疫調整薬を用いると、抗レミケード抗体が減少、消失することでレミケードの効果が復活することを紹介している。

本谷ほか(2012)では、2002年から2010年までの期間で著者らがレミケード治療した233例(うち一次無効29例、episodic治療39例)について、免疫調整薬併用によりどのような効果があったかを示している。

免疫調整薬との併用群では非併用群と比較して15ヶ月程度から寛解維持率に差が出始め、24ヶ月以降は有意に併用群の寛解維持率が高かったことを示した。また、レミケード治療の中止率ついても示しており、そこでも併用群の中止率が小さいことが確認できる。このことから本谷らは免疫調整薬との併用はレミケードによる治療期間を延長しうることが推察できると述べている。
加えて、貧血の憎悪や日和見感染などで免疫調整薬の使用を途中で中止した場合も、併用を28.2ヶ月継続していれば60%以上が40ヶ月以上の寛解維持が可能であるとしている。

併用に対して比較的前向きな本谷ほか(2012)や加藤(2016)でも、
併用によるリスクがあることは認識しており、
治療の効果だけでなく、そのリスクも患者に説明した上で治療の意思決定をしていくことが重要であると述べている。


併用に関する議論が収束しない理由として、加藤(2016)は比較試験の条件が多岐にわたるためとしている。
「レミケード・免疫調整薬ともに初めて使用する病歴の浅い患者に同時に使用開始した場合」については併用の方が良い成績であることは示されたが、
免疫調整薬のみによる治療に(病勢の悪化で)レミケードを加えた場合や、レミケード治療途中から併用を開始した場合などは明らかではない。「途中」は○ヶ月なのか、○年なのか、という時間的な条件もそろえることが難しく、二次無効についても定量的に測定ができない現状では定義にバラツキが出る可能性がある。
これらの場合分けの複雑さから決定的な比較試験が行えず、併用にリスクもあるため未だ統一した見解が得られていないと記されている。



続きは↓

cd-mo.hatenablog.com

 

*1:金井隆典, 松岡克善, 久松理一, 岩男泰, 緒方晴彦, 日比紀文, 2012, インフリキシマブ二次無効の機序と対策,治療方針. 日本消化器学会雑誌, 109, 364-369.

*2:田中信, 内山和彦, 髙木智久, 内藤裕二, 2016, 抗TNF-α抗体製剤の二次無効例への対処法. Intestine, 20, 145-152.

*3:田辺三菱製薬, “抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤「レミケード®点滴静注用100」クローン病に関する用法・用量の一部変更承認申請(2016年9月6日発表)”. 田辺三菱製薬ホームページ, https://www.mt-pharma.co.jp/shared/show.php?url=../release/nr/2016/MTPC160906_REC.html.

*4:東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター, “レミケード”, 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターホームページ, http://www.twmu.ac.jp/IOR/diagnosis/ra/medication/biologics/remicade.html.

*5:加藤順, 2016, 抗TNF-α抗体製剤と免疫調整薬の併用について. Intestine, 20, 139-144.

*6:井上詠, 緒方晴彦, 2010, 免疫統御療法によるクローン病のマネージメント ―現状と今後の展望について―. 日本消化器病学会雑誌, 107, 868-875.

*7:遠藤克哉, 志賀永嗣, 角田洋一,高橋成一, 木内喜孝, 下瀬川徹, 2011, 生物学的製剤によるクローン病寛解維持療法 ―infliximab 計画的維持投与の治療効果を中心に―. 日本消化器学会雑誌, 108, 401-409.

*8:本谷聡, 山下真幸, 田中浩紀, 今村哲理, 2012, チオプリン系免疫調整薬併用によるインフリキシマブ計画的維持投与での二次無効回避と長期寛解維持. 消化器内科, 54, 34-39.