くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

レミケードで狭窄は起こるのか?

レミケード治療中の消化管の狭窄の話はよく耳にする。
レミケード治療をすると、狭窄が起きやすくなるようにも感じられてしまうが、本当だろうか?


基本的には「レミケードが狭窄を進行させることはない」というのが一般的な認識のようだ。

辻川ほか(2010)*1では、”潰瘍の治癒にともない狭窄が増悪するとの意見もある”としながらも、海外での引用文献を挙げて有意な狭窄症例の増加は認められないとしている。

増田ほか(2013)*2でも、上とは別の引用文献を挙げて、狭窄の進行にレミケードは関与しないという意見が多いと述べている。

樋口ほか(2010)*3では、
狭窄に関連する因子として、重症度・罹患期間・回腸病変・ステロイドの新規使用が挙げられ、infliximabの通算投与量との関連はないとされる” と記しているが、
インフリキシマブ投与では他の治療の倍の確率で狭窄が起きるとする先行研究も示している。

レミケードが狭窄を起こすわけではないが、レミケードでの治療中に消化管の狭窄が起きることがあるのは事実のようで、

松井(2013, 学会抄録)*4では、

生物学的製剤による治療中には,消化管狭窄特に小腸狭窄をきたす可能性が高い

と記し、著者らの施設ではレミケード治療中の患者の約15% に小腸狭窄が起こったとも記載している。

 

クローン病の長期経過という観点で見ると、
「レミケードが狭窄を促進している」のではなく、
クローン病の進行により狭窄が起こりやすい病態になっていく」ということも考えられる。

Cosnes et al. (2002)*5は、2002名のクローン病患者を、
その病態から炎症型、瘻孔型、狭窄型の3タイプに分類し、長期間(240ヶ月)のうちに病態がどのように変化していったかを調べている。

病態の時間変化をまとめたFig.1からは、
発症して間もない頃は炎症型が多く(80%以上)、瘻孔・狭窄型は少なかった(それぞれ15%, 数%)ものが、
時間経過とともに炎症型が減り、瘻孔型、狭窄型が共に増えていくという様子が読み取れる(例えば、炎症、瘻孔、狭窄型が60ヶ月では50, 35, 10%、120ヶ月では30, 50, 15%、240ヶ月では10, 70, 17%という具合; ※ 合計が100%にならないのは各値を私がグラフからいい加減に読み取っているため)。

この研究は1974年から2000年までの統計であるので、生物学的製剤が治療の主流になる直前までの結果であるので、
早い段階でレミケードを使った場合に病態がどのように時間変化していくかは不明だが、
(レミケード治療によって増加の割合が緩やかになることがあるとしても)瘻孔・狭窄型が徐々に増えていくことは変わらないだろうと仮定すると、
以下のようにも考えられる。

 

レミケードは瘻孔(外瘻)には強力な効果を示す反面、狭窄には効果が無いことが分かっている。
病歴が長くなると瘻孔型・狭窄型、ともに割合が増えていくが、瘻孔型の多くはレミケードで症状が抑えられている一方、狭窄型は症状が表に出る。
そのため、レミケードを長期間使用していると、見かけ上、消化管狭窄の症状が出やすくなったように見えてしまう。

というのが「レミケードをすると狭窄が起きる」と感じるカラクリなのかもしれない。


*1:辻川知之, 馬場重樹, 安藤朗, 佐々木雅也, 斎藤康晴, 藤山佳秀, 2010, クローン病治療のアップデート III. Crohn 病腸管合併症への内科治療とその予防. 日本大腸肛門病会誌, 63, 869-874.

*2:増田勉, 稲次直樹, 吉川周作, 内田秀樹, 久下博之, 横谷倫世, 山岡健太郎, 稲垣水美, 下林孝好, 横尾貴史, 西脇英敏, 2013, 狭窄病変を有するクローン病症例のインフリキシマブ治療経過中に化膿性脊椎炎を発症した1例. 日本大腸肛門病会誌, 66, 504-509.

*3:樋口裕介, 松本吏弘, 宮谷博幸, 山中健一, 池田正俊, 牛丸信也, 高松徹, 福西昌徳, 岩城孝明, 鷺原規喜, 吉田行雄, 小西文雄, 2010, Infliximab投与後に同時多発性に腸管狭窄が出現したクローン病の1例. Progress of Digestive Endoscopy, 76, 116-117.

*4:松井敏幸, 2013, 教育講演5 IBDの診断と治療:内科医からみた最近の話題. 日本大腸肛門病会誌, 66, 672.

*5:Cosnes, J., Cattan, S., Blain, A., Beaugerie, L., Carbonnel, F., Parc, R., Gendre, J. P., 2002, Long-Term Evolution of Disease Behavior of Crohn’s Disease. Inflammatory Bowel Diseases, 8, 244-250.