くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

実は根拠の薄い脂肪の制限 その3(3/3)

<<その2からの続き>>

なぜ脂肪制限をしているのか?

根拠が薄いのが分かっているのに、お前はなぜやっているんだ?と思うかもしれない。
私が脂肪の制限をしている理由は3つある。
調子が良くなるから、藁にもすがる、カロリー制限の3つがそれだ。

 

「脂肪の摂取を控えると症状がマシになる」というのは多くのクローン病患者が感じていることではないだろうか。
私も下痢がよくなる(というより、脂肪を取り過ぎると下痢になる)と感じている。

実は、下痢が治まるのも当然で、
脂肪(食物繊維も)を控えるというのはクローン病に限ったことではなく、下痢の時の一般的な対処法なのだ。

日本臨床内科医会のハンドブック*1(4ページ)や大幸薬品のHP*2にも下痢の時は脂肪や食物繊維を避けることが記されている。これらは消化不良を起こしたり、腸の蠕動運動を活発にするので、下痢になりやすくなるからだ。
脂肪の摂取を控えることは、炎症は抑えられないが、下痢を抑える効果はあるということだ。

その2の記事で書いた藤山(2004)*3のイギリスでの食事調査の結果が、脂肪や食物繊維を反映しているように見えるのも、
「下痢を起こしやすい食べ物」を経験的、あるいは知識によって避けている可能性が考えられる。

生物学的製剤を使っていても、調子が落ちたときや薬の効果が薄れてきた時期は下痢になることがある。トイレの心配をしながら生活するのはやはり不便なので、下痢をしないためにも脂肪を控えている。

 

藁にもすがるというのは、脂肪の制限(≒下痢を起こさないようにすること)が超長期的には効果があればいいなと少しだけ期待しているからだ。

クローン病の治療には、生物学的製剤も含め、長期的に有意な効果があることを示す報告がない。
既存の治療法は短期的(数ヶ月〜数年オーダー)に症状が治まるのは間違いないが、長期的(数十年オーダー)な腸管へのダメージが良い方向へ変わるのかは分からないのが現状だ。

有効な手が分からなくても、将来的に悪い状態になっていくのは避けようがないので、今出来ることを、害にならないのなら無駄でもやっておきたいという気持ちがある。
脂肪の摂取量が寛解導入率に関係しないとしても、下痢をしないことは(長期的に見ても)身体に悪いことではないだろうという思いもある。

とは言っても、脂肪の制限については、長期的に見ても大きく効果をあげることは無いと見ている。一定以上の効果があるのならば、研究者が気づき、すでに報告がされているはずだからだ。
特に治療法が乏しかった2000年以前は、違いがあるのならばより鮮明に現れていたはずである(残念ながら脂肪の制限が長期的に見て良い結果をもたらしたという報告は見当たらない)。

ただ、ノイズが大きく、別のバイアスがかかり、長い時間が経たないと違いが見えないような微小な変化は、優れた感性を持つ研究者達であっても直感では捉えにくく、かなり注意深く統計を取らなければ気づくことは出来ない。
例えば、「日々の体重の変化は微妙に増えたり減ったりなのに、長期的に見ると太ってきている」や、気温の変化を見れば「一日の中でも、毎日の同じ時間の比較でも、暖かくなったり寒くなったりを繰り返すのに季節は移ろっていく」のように、
微小な変化はすぐには捉えにくく、気がつくと変わっていることがある。
この変化を知るには体重や気温を条件を合わせて精度良く測り、ある程度以上長い期間をかけてその変化を慎重に見ていく必要がある。
より長いスパンでのより微妙な変化ならば捉えることはもっと大変になる。
食事制限もそういう微少な効果のある治療だったらなぁ、
30年で1割(脂肪制限群の方が状態が良い方へ10%分、分布が移動しているイメージ)くらいの効果があったらいいなぁと夢想している。

いずれにせよ"藁"程度に期待をしている。

脂肪の摂取制限は、脂溶性ビタミンの摂取不足以外は特に問題が指摘されていないので、ビタミンを積極的に摂るようにしながら、
(短期的には下痢は抑えられるし)良い方に転べばラッキーぐらいの軽い気持ちでできる。
年齢が上がってきたため、脂肪を摂らないことに苦痛がないし、むしろ脂肪の摂りすぎの方が健康を害するので、健康維持のつもりでお気楽にやっているという部分もある。
抗TNF-α製剤が使えなくなった場合には、他の治療法では今ほどの効果が得られないと考えているので、急な便意に怯えるという、そう遠くない未来に備える意味もある。

「控える」だけでは目安がなくて実践しづらいので、どうせやるなら(短期的に)良い結果が出ているモノを真似ようということで、EAファーマのハンドブックに載っている福田ほか(1998)*4の20g/日 を採用している。

 

3つ目の理由のカロリー制限は、体重の増加と関係している。
一昨年、レミケードを開始した時期も体重が増えすぎて減量したのだが、
昨年のレミケード倍量投与開始後やヒュミラへのスイッチ後から体重の増加が続いており、悩まされている。
薬が効いて腸の状態が良くなると吸収も良くなり、腸管の修復に必要なエネルギーは減るので、エレンタールを4包飲んでいることもあって8000歩/日 程度の運動量では体重が増えていく。

食事の量は診断前より格段に少なくなっているが、それでも徐々に太っていくので、脂肪の多い、カロリーが高いものを食べる余裕が(総摂取カロリー的に)ないのだ。

この太りやすいという状態は、調子の良いときほど顕著なので、
結果として、
調子の悪いとき→下痢を抑えるために脂肪を控える
調子の良いとき→太るので脂肪を摂らない

と、年中脂肪を控える生活になっている。

 

まとめ
  • 脂肪の摂取量や種類による効果は、小規模な研究では報告されているが、
    それらを俯瞰したメタ解析の結果は「脂肪の摂取量、種類とも寛解率には影響を与えていない(= 炎症を抑える効果は無い)」というものになっている
  • 脂肪に関する研究(特に種類について)は小規模なものが少数例である(信頼できる症例自体が少ない)ので、コントロールされた大規模な試験が行われれば、有意な効果が見えてくる可能性もある
  • 脂肪の制限には炎症を抑える効果は無いが、下痢を抑える効果はある

 

 

 

*1:日本臨床内科医会, わかりやすい病気のはなしシリーズ42 下痢の正しい対処法. 日本臨床内科医会, 東京, 2010年2月, pp1-13.
http://www.japha.jp/general/byoki.htmlからDL可能

*2:大幸薬品, “おなかにいい食生活”, 大幸薬品HP, http://www.seirogan.co.jp/fun/stomach/life.html.

*3:藤山佳秀, 2004, クローン病の食事に関する日英の比較とIBDにおけるprobioticsとprebioticsの使用状況の実態調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 平成16年度総括・分担研究報告書, 平成17年3月, pp. 75-76.
厚労省の科学研究成果データベース(https://mhlw-grants.niph.go.jp/)で「難治性炎症性腸管障害」などと検索

*4:福田能啓, 馬場裕子, 奥井雅憲, 山本憲康, 田村和民, 里見匡迪, 下山孝, 1998,分担研究報告11. クローン病の維持療法時の脂肪摂取と累積再燃率. 厚生省特定疾患 難治性炎症性腸管障害調査研究班 平成10年度研究報告書, 平成11年3月, pp69-70.
厚労省の科学研究成果データベース(https://mhlw-grants.niph.go.jp/)で「難治性炎症性腸管障害」などと検索すれば見つかる