くろーんもーのクロ歴史

2018年の3月に35歳を過ぎてクローン病と診断されたおっさんの備忘録的なブログです。病状や治療のことを書き綴ります。

クローン病の教科書

徐々に通勤が再開して、なんとなくいろんな事が億劫に感じる。
在宅ワーク中も通勤と同じくらいの距離を歩いていたし、調子も良いのだが、
好きなところを歩くのと職場へ行かされるのではやっぱり気分が違うようだ。

妻に「新しい記事が上がってない(読みたい)」とせっつかれるので、以前から書こうと思いながらやっていなかった内容を書くことにした。

 

ずいぶん前の記事で、よくまとまったクローン病の教科書がないというようなことを書いたが、
私の好きな教科書*1で、他には載っていない内容がいくつも書かれ、内容も平易なものがあるので、それについて書いてみる。

 

メディカ出版のホームページで目次が見られるが、構成に特別なところはない。
IBDの概要から始まり、内科的治療、腸管外合併症、外科的治療、普段の生活、子供についての内容と続いていく。
治療内容についても、原著の出版年が2010年ということもあって真新しいものはないので、JAK阻害剤のような最新、近未来の治療が知りたい場合は、より出版年が新しいものの方が詳しい。


他の日本語の書籍と違う点(私が好きな点でもある)は、メンタル面や向き合い方についての内容が盛り込まれている部分だ。
日本の書籍は、病気の概要、内科的、外科的治療といった身体的、物理的な内容にほとんどのページを使い、
患者の気持ちの部分は全く無いか、補足的に書かれている場合が多いが、本書では患者の思うこと、悩むことについてが随所に見られる。


1章では、単純な病気の概論だけでなく、”誤診されていないか?”や、”心のケア”、”他人に打ち明ける”などの節が含まれ、診断時に感じる不安についてページが割かれている。
”心のケア”の節では、難病と診断されたときから病気を受容できるまでの心の推移が、一般的な自身の状態の認識過程と同じだとしており、その変化が簡単に解説されている。
私はかなり年を取ってから発症したのもあって、この心理経過をたどってはいないのだが、多くの人のように10代での発症なら、本書にあるように”否認”や”怒り”といった段階を経て、自分の病気を認められるまでに時間がかかっただろうと想像がつく。

また、IBD患者は健康な人よりもうつの割合が高いが、その割には診断がなされていないということも書かれており、鬱の治療が疾患の治療よりも大事な場合もある(だから抗うつ剤などメンタルの治療に罪悪感を持たずしっかり治療を受けろ)とまで書かれている。

今の私はこの種の問題を抱えていないが、今後、症状が進行していくことと肉体的な衰えにより、状況に適応するのが難しくなるかもしれない。
知識を事前に得ておけば混乱も少なく、メンタルの専門家に協力を求めることも頭に浮かぶようになる。
こういった心理面に対する記載は日本の書籍には少ないので参考になったし、今後も少し情報を仕入れていこうと思った。


本書で何度も出てくる「クローン病だからといって、他の病気に罹らないわけではない」という言葉にもハッとさせられるところがあった。
専門医である著者自身が、「クローン病の症状に気を取られて妊娠初期の兆候を見落としたことがある」と述べており、
食中毒や感染症、別の消化器疾患の可能性もあるので、安易に「またクローン病の下痢か」と断定しないようにとか、他の病気にも注意を払うようにと繰り返し述べられている。

上記のうつの話もそうだが、クローン病の症状に目が行きがちで、他の病気のことを忘れてしまいがちだ。特に下痢や下血に対しては一般の人よりも意識が低くなりがちなので、気を付けたい。

 

症状の季節変動に関する記述は本書で初めて見た。
引用元の論文はだいぶ不明瞭な結果で、季節性はほとんど否定されているように読めるが、著者はかなり断定的に春・秋に症状が変動することがよくあると書いている。

病気本来の性質というより、地域性や文化による(季節性の)ストレスが由来の変動なのだろうか。
引用元の研究のように多くのデータを丸めると見えなくなる(様々な周期を持つデータをまとめると平均化されて傾向が見えにくくなる;例えば、私の場合はこれまでに2度、夏の初めに調子を崩し、治療方針を変更している)性質のものかもしれないので、念のため注意を払っておきたい。

 

少し意外だったのだが、食事については1つの章を設けて解説していることだ。

原著がアメリカの書籍なので、「脂肪と食物繊維の厳しい制限を!」という論調ではないが、
それでも、脂肪のとりすぎや食物繊維の効果で下痢や痛みを引き起こすことは書かれており、症状に併せて(特に食物繊維の)摂取量をコントロールする必要があるとしている。IBDだからこそ食事に気を使うようにも勧めている。

食事や栄養の中にカルシウムについての節があるのは珍しい。
別の章で、IBD、特にクローン病患者は一般に比べて骨粗鬆症による骨折のリスクが高いことが書かれており、充分な量のカルシウムの摂取と適度な運動が推奨されている。骨折に関する情報は初耳だったので自分も気を付けたい。

「一度に多くの食事を摂るよりも少量を複数回摂る方が負担が少ない」、「水分を多めにとる」、「IBD患者の低栄養状態」といった日本では強く言われていない部分もあり、別の立場からの食事の考え方は参考になる。

 

タイトルにもあるが、セルフマネジメントに1つの章を割いているのはアメリカらしい。治療を医師任せにせず、自分でも先を見据えて考えろということだと思う。
内容は直近、短期的、長期的と時期をわけて考えるべき治療計画や、かかりつけ医と専門医、外科医などの役割の違いについて解説している。
アメリカでの話なので、日本とは異なる部分もあるが、「治らない病気とこれからどう付き合っていくか」を考えるには十分参考になる内容だった。

 

日本の書籍ではまず見ることがない内容として驚いたのは、代替医療(p92)についての節があることだ。
代替医療については必ずしも好意的に書かれているわけではないが、無視をせず、なぜ好ましくない場合が多いかを書いているのは偉いなと思った。

効果や副作用について質の高い研究がほとんどない、(個々には安全でも)他の薬剤との相互作用で副作用を生ずる可能性がある、「天然、自然のもの」が無害で副作用が無いわけではない、
といった文言は、ガンのインチキ治療へ注意を促す情報でも目にした内容だと思った。
代替医療の使用と激しい副作用が高い確率で関係しているという研究の引用もあり、自己判断で妙な物に手を出すことの怖さを感じる。

 

本書にも書いてあるとおり、IBDに対する知見は急激に増えている。数年おきに組まれる論文雑誌の特集号でも、5年前の物は内容が足りないと感じるくらいだ。だが、その更新される情報をよくまとめた書籍は日本語ではほとんど無く、患者サイドとしては勉強のよりどころが少ない。

専門家ではないので、論文だけでは知識が断片的になりがち(後に否定された結果を信じていることもありえる)なので、パンフレットなどより詳細で、まとまった書籍が5〜10年程度のスパンで出てくると知識のアップデートに良いのだがなぁと思う。


*1:サナンダ・V・ケイン, 潰瘍性大腸炎クローン病の治療・生活まるごとガイド : アメリカ消化器病学会の指針に基づいた自己管理のポイント. 福島恒男 監訳, メディカ出版, 大阪, 2011, pp. 1-253.